大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

秩父簡易裁判所 昭和33年(ろ)20号 判決

被告人 赤岩頼道

主文

被告人を罰金一万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、二百五十円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

公職選挙法第二百五十二条第一項に規定する選挙権および被選挙権を有しない旨の期間を三年に短縮する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、肩書住居地において、社会通信社の社長兼編集、発行人として、社会通信を発行し、これを販売しているものであるが、右新聞は、いわゆる旬刊紙であつて昭和二十四年三月十九日第三種郵便物の認可を受け、その通常の頒布方法は購読者約二千人に対し有料かつ郵送によつて頒布しているのにかかわらず、昭和三十三年五月二十二日施行の衆議院議員総選挙に際し、「最高点争いは鴨田、高田か?荒船清十郎候補危し!最後の浸透作戦に突入せん」等なる標題の下に、埼玉県第三区より立候補した荒船清十郎の選挙運動に関する記事を掲載した同月二十一日付社会通信号外一万三千部(昭和三十三年押第一号の一、二はその一部)を発行し、そのうち約一万二千三百部を同月二十一日秩父郡皆野町大字皆野九百二番地の二新聞販売業南久之助および秩父市大字大宮四千三百六十四番地新聞販売業平沢勝寿をして、同日付読売、毎日、産経、朝日の各新聞朝刊配達に際し、折込の方法により右各新聞の購読者秩父郡野上町大字本野上七百十八番地島田八重および秩父市大字大宮七百五十七番地田代粂太郎外多数名に対し無料頒布せしめ、もつて通常の方法によらないで頒布したものである。

(証拠)(略)

弁護人は、判示社会通信号外は公職選挙法第百四十八条第三項一イの要件を具備しないから同条第一項の新聞紙ではない、したがつて、被告人は判示行為が罪とならないと考え右行為に出たものであるから無罪である旨主張するけれども、同条第三項の規定は、選挙運動期間中における同条第一項の新聞紙又は雑誌の要件を一般的、抽象的に定めたものであつて、この要件を欠いているからといつて、直ちに同条第一項の新聞紙又は雑誌でないとはいえないし、この要件を充たしていても、本質的に新聞や雑誌でないものは、同条第一項の新聞紙や雑誌であるということはできないから結局は、右要件を参考にしつつ、立法趣旨を勘案し、その個々の発行の態様、時期、掲載事項、体裁等について、いわゆる社会通念によつて判断するほかはない。しかして、前掲各証拠によれば、本件社会通信は、昭和二十三年十一月創刊第一号から第四一六号が発行されており、当初は週間であつたがその後旬刊に改められ、その間数回号外が発行されていること、昭和三十三年五月二十日付第四一六号の社会通信の本紙が発行されたその翌二十一日に判示の社会通信号外が発行されていること、購読料金は一ヵ月三十五円であり、判示のように通常は約二千人に対し郵送によつて頒布されていることその他判示社会通信号外の発行の態様、その体裁等を併せ考れば、右号外が号を逐つてなく、無料頒布(この点同条第二項違反の一部となること判示のとおりである。)されていても、同条第一項の新聞紙たることにかわりなく、また被告人は、社会通信を通常の頒布方法である郵送によらないで、判示の頒布方法によることはいけないことである旨認識していたことが認められる以上、その間被告人が判示行為が罪とならないと考えていたとしても、かような法の不知は、それが法定犯であるのゆえをもつて犯罪の成立を妨げるものではないから、弁護人の右主張は採用することはできない。

(適条)

被告人の判示行為は、公職選挙法第百四十八条第二項、第二百四十三条第六号(包括一罪)に当るので、所定刑中罰金刑を選択し、その金額範囲内において、被告人を罰金一万円に処し、罰金不完納の場合の労役場留置について刑法第十八条を適用し、公職選挙法第二百五十二条第一項に規定する選挙権および被選挙権を有しない旨の期間を同条第三項によつて三年に短縮する。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 荒井徳次郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例